おバカもつらい

人呼んでおバカの百舌花と発します

おバカもつらいよ

「つらい浮世におバカ一匹」

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・・・奮闘努力の甲斐もなく・・・

  おバカとケチがとりえの私です。 皆さんはきっと「百舌花は気楽でいいなぁ」とお思いでしょう。 しかし、そうでもありません。おバカにはおバカなりの、ケチにはケチなりの辛さがあるのです。 冷たい浮世の風は、おバカだけをよけて吹いてはくれません。
  私は幸せになるために、おバカなりの奮闘努力をしています。 しかし、努力が必ずしも報われないのが、世の習い・・・・・。
  
「不条理は忘れたころにやってくる」

かくしておバカの辛い近況・・・・・・・・・。

・・・トイレの不条理(歴史的考察)・・・

  突然ですが、現代日本のトイレは、この二、三十年で 大きな変貌をとげています。私の子供の頃、トイレといえば、たいがいの家庭に大用と小用の二つが 設置されていました。大用はあのキンカクシの付いたもので、 男性の大女性の大と小のためにありましたが、 小用はチューリップ型で、タダ男性の小のためのみにあるのでした。 利用頻度が低いにもかかわらず、長い歴史を形作った小用便器は男性の尊厳を示していたとも言えるでしょう。
 そもそも人間の男はその構造上、立って排尿するようにできています。直立歩行することによって人間が 万物の霊長たり得た事を考えれば、これはマコトに尊厳ある行為と言えます。
 しかし、大の部屋が繁盛しているコンビニだとすれば、 小の部屋は傾きかけた田舎のよろず屋に例える事ができます。 かくして時代は利用頻度の低い、小の部屋の存在を許さなくなったのです。 そこには「ウサギ小屋」に例えられる日本の住宅事情も少なからず影響しているものと思われます。 欧米型合理主義の結晶「西洋式便器」が登場すると日本男子の尊厳はアッと言う間に無視されてしまいます。 トイレはワンルーム!便器は洋式1個のみとなってしまったのです。
  「西洋式便器」の構造は、ご存じのように椅子を模しています。 ですから座るために、輪または馬蹄型の「便座」というモノが取り付けられています。 ために近年の日本男子は小用の際、ズボンのファスナーを開ける前に蓋ならびに便座を上げる事になりました。 便座を上げないことには放出の的が小さく限定されて、排尿難度の高さは筆舌に尽くしがたいモノがあります。 (酔って試したことがあるから嘘ではありません)
たとえ便座を上げたとしても楕円の的の大きさは決して十分ではありません。 その上、的までの距離もかなりあります。和式小便器の時も、アウトドアライフの時も、 まったく意識しなかった緊張を要するのです。うっかりすると的をはずす事になりかねません。
(酔って試したことがあるから嘘ではありません)
  本来の「安息の空間」がこのように「緊張の空間」に変貌したと言うことは、 現代日本、まことに「男はつらいよ」と言わざるを得ません。 あの楽チンな放出を楽しめる小便器を懐かしむ今日この頃なのです。
  さらに私は世帯主として常に心掛けていることもあります。 家族ならびに自分が、便器にこびりつけたウンチ等の汚れを、放出により洗浄するという作業です。 人肌に暖めておいた小水を1点に集中して放出することにより、 かなり強力なこびり付きをも落とす技術を私は身につけていますが、これにも高度の集中力と緊張を要するのです。

「個室における世帯主としての義務と責任」

・・・不吉な予感・・・

  その日も、朝から「緊張の個室」に入りました。 ドアを開け、便座を上げ、ファスナーを下げ、排尿という行為さえも無駄にすることなく、緊張のうちに「こびり付き」 めがけて放出しました。
長年の修行のかいあってか、その日は短時間に3つのこびり付きを落とすことができ、 ケチな私はしばし満ち足りた気分にひたりました。私の技術がサンポール数滴分に相当したかと思うと、 個室の緊張も報われた気がしました。世のリサイクル運動に貢献したようにも思います。

  しかし、この満足が私を油断させました。 いつものように排尿兼洗浄作業終了後に、水洗レバーに手をかけた時のことです。
  現在一般的な家庭用水洗便所装置においては、レバーを「大」に、 文字どおり大きくひくとタンクの水が勢いよく流れ、を下水に押し流します。 の時はレバーを「小」に向けて小さく引くと、引いた時間だけ水を少量流すようにできています。
経験から言っては流して実物が見えなくなる必要がありますが、 は水の色が黄色から透明になれば十分なのです。
  その時、私はレバーに手をかけて「小」に向けてレバーを引きました。 しかし、このレバーの引き加減はかなり微妙にできています。迂闊に強く引くと「大」と同じ働きをしてしまうのです。 この時も、こびり付き作業成功の油断からいくぶん強く引きすぎたため、水がドッと出てきたのです。 はっと気がついた時にはもう遅い。「覆水盆に返らず」流れる水を止めることはできません。 タンクいっぱいの水がなくなるまで流れていきました。 便器の吸い込み口を手で押さえたい気持ちを押さえ、呆然として流れる水を見つめていました。 空しい気分でいっぱいです。何か、取り返しのつかない人生の出来事をも連想させました。 大切な水を無駄にしてしまい、さっき節約したサンポール数滴分もチャラになってしまったのです。 その日1日の不吉な出来事を予感させるに十分でした。 ついでに1つ放屁もすませ、失意のうちにトイレを出るのでました。

「流れる水に身をまかせる恍惚と不安」

・・・予感の予感・・・

  いつもの道を会社に向かって歩いていました。 トイレの水を無駄にした件については、まだいくぶん悔悟の念が残っていました。
  ふと見ると5、60メートルほど向こうに、消費者金融のポケットティッシュ配りの、いつもの女性が立っています。 手にはスーパーに置いてあるようなカゴを持ち、足元にはティッシュが入った段ボール箱がありした。 私はこの頃、毎日のようにこの女性から宣伝用のティッシュをもらっています。 見れば今日は2個づつ配っているようです。寒い日でしたから早く配り終えてしまいたいのでしょう。 私は「2個!ラッキー」と小さく呟きました。これであのサンポール数滴分をばん回できるかもしれません。 距離はあと20メートルほどに縮まっています。私は素知らぬふうを装いながら神経はティッシュに集中していました。 物欲しそうな顔はできません。ティッシュを配っているのは、うら若い女性ですから。
10メートルまで行ったところで、前を歩いていたサラリーマン風が、2個のティッシュをゲットするのが見えました。 と、そのとたん、何とその女性が足元の段ボールを軽々とつかむと、 目の前の消費者金融があるビルに入って行ってしまうではありませんか! ちょうど私の前でティッシュが品切れになってしまったのです。 さっき「2個!ラッキー」と思ったのはまったくの誤解でした。

  1個づつ配ってくれれば私までまわってきたモノを、 あの女性の仕事に対する熱意のなさを恨めしくも思うのでした。やっぱり仕事はまじめにして欲しいものです。 サンポール数滴分は、ばん回できないまま、朝からさらに失意を増し、歩き続けるのでした。 「今日はナニで鼻をかもうか」と考えながら。

「消費者金融にも見放された気持ち」

・・・とけない誤解・・・

  その日は午前中にある会社に用事があって出かけました。 その会社は、とあるオフィスビルの10階にあります。 用事が済んで帰りのこと、すぐに来た空のエレベーターに乗り込もうとすると、 後から小走りに重役タイプの紳士が乗り込んできました。私は1階のボタンを押し、 紳士はそそくさと8階のボタンを押して、ドアに向かって私に背を向け立ちました。 エレベーターはほどなくして8階に着きドアーが開きます。紳士は足早に出て行きましたが、 出ていく瞬間「プーッ」という音をたてました。私はすぐにはそれが何の音なのか理解できませんでした。 紳士の靴がピカピカの床にこすれる音にも思えたからです。
  しかし、真相はドアが閉まる瞬間に判明しました。 ニオイが、さして広くもないエレベーターという個室に充満したのです。それは紛れもなく「オナラ」でした。 私は驚き、持っていた茶封筒でバタバタと、そのあたりを扇ぎました。が、扇いでどうなるものでもありません。 大草原にいるならともかく、エレベーターは密室です。かえってニオイを全体にまんべんなく振りまき、 エレベーターをガス室と化す結果になってしまったのです。
  やむなく私は、息を吸い込むのをしばし中断しました。

  息を殺してジッと耐えるつもりでいると、エレベーターは次の7階で停まりました。   「オー、これで空気の入れ換えができる!」と私は喜びました。「神は私を見放してはいない!」 とも思いました。浅はかでした。
  ドアーが開くと1人の女性が、書類の束をかかえて乗り込んできました。 年の頃なら20代後半ぐらいでしょうか、美しいキャリアウーマンといった感じで、 タレントの鈴木穂奈美さんに似ています。 1歩エレベーターに足を踏み入れると、その美しい小鼻をピクッと動かし、わずかに顔をしかめました。 異様なニオイに気がついたのでしょう。一瞬、私に冷たい視線を投げかけ、 背中を向けてエレベーターの操作ボタンを押しました。明らかに彼女は、 その異様なニオイの元が私から発せられたと思っています。軽蔑の視線がそれを物語っています。 クリーム色のスーツの背中が 『1人だと思って、エレベーターの中でオナラをかました破廉恥男!』と言っていました。
  『違う!誤解だ!それはさっき降りた紳士が、降り際にたれ流していったオナラ!私ではない!・・・』と 心の中で叫びました。しかし、それをどうやって、この見ず知らずの女性に説明できましょうか。 「お嬢さん、このオナラのニオイに関して私は一切関係ありません。これはさっき降りた紳士が・・ カクカクシカジカ・・」とでも言えばいいのでしょうか。 そんな言い訳がましい事を言えば、よけい私が危ないオジサンになってしまうでしょう。 この、あふれる思いを伝えるすべもなく、彼女の美しいウナジを眺めながらボー然としていると、 私の視線に気がついたのでしょうか、彼女は顔を少しこっちに向けて、 チラッとまた、侮蔑の一瞥を私に投げかけるのでした。
  『違う違う!断じて違う!私だってたまにはオナラもする。いや、しょっちゅうするかもしれない。 こんなニオイの時も確かにある。でも今日は違う、これは違う!放屁は既に今朝のトイレで済ませている。 私は無罪だー!』 狼に襲われながらも沈黙するしかない迷える羊のように、助けを求めるすべもなく、私は心の中で絶叫するのでした。 辛い!人生は何て辛いのでしょう。その女性がなまじ美しいので、ことさら口惜しいのです。 鈴木穂奈美似なのが辛いのです。せめて希木樹林さんに似ていてくれたら、どんなにか気が楽だったでしょう。
  私の心の叫びを乗せたガス室もどきのエレベーターが5階に停まり、 誤解のままの女性は、足早に降りて行きました。私1人を拘留したエレベーターは、 ガスのためか、失意のためか、いつもより体の浮き上がりを強く感じさせて降下していくのでした。

「『羊達の沈黙』気分のおバカにも救済を」

弁明の機会も与えられず、見知らぬ美女に軽蔑されてしまった「おバカ」に、未来はあるのでしょうか。

・・・ 完 ・・・

現在、反省の日々をおくっております。


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