その日は爽やかな好天でした。そこで、思い立って床屋へ行くことにしました。
そこでの話です。
床屋に行きますと、「いらっしゃいませ、 15分ほどですのでそちらでお待ちください」と言いますので、
「はいはい」と椅子に座って待つことにしました。
退屈しのぎに雑誌でもと床屋の本棚を見ますと、何と以前話題になった「アンナ、愛のなんとか」というアンナ
と羽賀健二のペアヌード写真集が置いてあるではありませんか。
この本がこの床屋にあることは以前から知ってはいました。ただ、いつもは店に順番を待つ人が必ず1人や2人、
時には子どもなどもいて手にとることはもちろん視線を長く留めることもはばかられるのでした。
私はこの手の本は特別好きというわけではないようなあるような、と言うよりも特に嫌いというわけでもないような
あるような、まー何と申しましょうか、それはさておき、このように一時的とはいえ社会的に話題となった書物を
眼の前にして一瞥も与えず無視するのも社会人として一日本国民としていかがなものか?などと言い訳がましく自問自
答すること30秒。素早く周りをうかがい見ますと、幸い他に待ってる人もなく、床屋の従業員数人は皆仕事に没頭して
私に注意を払う人もいません。
まったくこれぞ千載一遇のチャンスというべきでしょう。私は素早くその、一人前の社会人になるために必須の
写真集「アンナ、愛の・・・」に手を伸ばしました。
本を手にした私はいつもの緩慢な動作からは想像もつかないほど機敏にページをめくり始めました。
不要な箇所は素早くとばし、重要な箇所はじっくりと脳裏に焼き付けるべく、さりげない動作の中に顔はあくまでも
クールを心掛けて、これすべて計算され尽くした動作でした。そのかいあってその作業は5分ほどで無事終了しました。
これまた素早く写真集を本棚に戻して、もう一度まわりを見回しましたが、しめしめ私に注意を払う者は一人もいない
のでありました。
ここで今、行った作業について感想と今後の展望、反省などを考えてみたのでありますが、一言で言いますと
「まあこんなもんか」というところでしょうか。それなりのところはそれなりに撮れていて、それなりでないと
ころはそれなりに写ってないというまあ当たり前の結果なのです。ここでカメラマンあるいは出版社に注文
をつけるとすれば、もっと必要なところを十分に、つまりその、なんと言ったらいいか・・・まーいっか。
とりあえず、くだんの作業を終えてまだ待ち時間が残っています。さらになにか雑誌でもと再度さきほどの本棚
を見ますと、
なんとなんと、さっきはまったく気がつかなかった衝撃的なタイトルの写真集らしき本があるではありませんか。
私は胸が一つドキッと音をたてるのを感じました。こんな本がこんな公衆の目につく場所にかくも無造作に置いてあ
っていいのだろうか。我が眼を疑いながらも、これも社会勉強のつもりと周りをうかがいながらその本を取りました。
その本は「ヘアーカタログ」というタイトルだったのです!!
何とそのものズバリのタイトル!!!
聡明な私はページをめっくってすぐに、その写真集の反社会的な内容の全容を理解しました。
何とそれは男性の髪型の写真がいくつも載ってるだけのものだったのです。
ここが床屋であることを私は忘れていました。
その並んでいる場所が「アンナ、愛の・・・」の隣だったもんですから、純情な私は、あらぬ誤解をして
「ヘアー○ー○カタログ」と読み違えてしまったのです。
その時、髪を金髪に染め、眉毛だけはあくまでも黒々とし、ピアスを右耳に2個付けた床屋のお兄さんに
「お待たせいたしましたー。こちらへどーぞー」と呼ばれ、心ならずもどぎまぎしながら「ヘアーカタログ」
を本棚に戻す私でした。
いったい、さっき胸をドキドキさせた私はなんだったのでしょうか?
悲しい中年のうたかたの15分の出来事でありました。