SS9 カモ

ショートショート その9
カモ


 

  ――鴨が葱を背負って飛んで来て、鍋と薪は後で持参するという。  狩田は目の前の老人を見てそれと同じだと思った。   ここで占いの店を初めてそろそろ一年になるが、こんなに都合の好  い客はいなかった。大概はああだこうだと騙しの話術を駆使して数時  間もかけてやっと金を搾り取る。   ところがこのたっぷり金を持っていそうな老人は詐欺師に騙される  為にいるような人物だった。それほど時間をかけなくても簡単に金を  巻き上げられそうだった。   老人は部屋に入ってくるなり、先生助けて下されと言った。  「今年三十九歳になる息子が原因不明の病気にかかり衰弱しておりま  してな、このままでは死んでしまう。病院もいくつか変りましたがど  こへいっても病名がはっきりしません。あれがこの若さで死んだりし  たら、まだ幼い孫達が憐れで・・」   老人は泣きながらもう一度、先生助けて下されと言った。  「そうですか、それはお気の毒に」  狩田はいつものパターンで名前、生年月日、血液型等を聞いて書きと  めた。商売道具の易学全書をめくる。  「卯年生まれの羊座A型ですか、名前も薄命気味の画数ですな・・」  少し眉間に皺を寄せて難しそうな顔を作って見せた。  「先生、やはり悪いめぐり合わせなんでしょうか、息子は」  「いえいえ、まだ断定は出来ません。最近写した息子さんの写真でも  ありませんかな。相を見て占うことが出来るのですが」  「先週写したのがありますが」  と言って差し出した写真を狩田はじっと見た。こんな時、すぐに結論  をだしてはいけない。じーっと飽きるほど見つめる。相手は狩田の顔  を凝視しているはずだ。ゆっくりと顔を曇らせていって不安を煽る。  相手の不安が沸点に達して爆発する直前におもむろに言う。  「これはいけませんな。息子さんには死相が出ている。このままでは  今年いっぱいもたんでしょう」  「やっぱりそうですか。実は医者にもそう言われましてな。先生、何  とかなりませんでしょうか。運勢を変える方法はないでしょうか」  「ないこともないが・・。少々費用がかかりましてな」  「息子の病気が治るんでしたら多少の出費は覚悟しております。好い  方法がありましたら是非お教え願いたいのです」  狩田は後ろの棚から大きな桐箱を取りテーブルの上に置いた。蓋を開  けると中には金色に輝く多宝塔が入っていた。  「これを息子さんの枕元に置けば一月ほどで死相が消えましょう。た  だ希少の品でしてなこれで二百万円致します」  「息子の為なら安いものです。ぜひお譲り願います。しかし一つだけ  ではまだ不安なのですが、他に何かございませんか」   狩田はもっと売りつけられるぞと内心ほくそえんだ。  「さらにこの幸せの壷を足元に置きますと七つの光が部屋の悪鬼を払  いましてな、さらにいい。これは三百万円になりますが」  「是非それもいただきたい。他にも何か霊験あらたかな品がございま  せんでしょうか」   ――これはもっと出しそうだ。少しふっかけてやろう。  「普通はこれまではお見せしないんだが、あなたの息子さんに対する  お気持ちに感じ入りましたのでご覧にいれましょう」   棚からもう一つ桐箱を出してきて蓋を開けた。 「この黄金の観音様を床の間に飾れば以後その家から病が一掃され家族  全員百歳までの天寿を約束されるでしょう。ただちょっと値が張りま  してな一体五百万円となりますが、いかがでしょうか」   ――まずふっかけて、高いと言ったら少々値を下げにすればいい。  「是非それも頂きたい。三点すべて頂ければありがたい」   老人は信じきっており、全くの鴨だった。  「息子は日に日に衰弱している。早く部屋に飾ってやりたいが、今は  百万円しか手持ちの現金がない。これを手付を置くので明日銀行が開  いたらすぐ支払うという事でどうだろうか」  と老人は言った。   このブツは今日の午前中、世界美術宝飾という会社のセールスが、  三点三十万円でどうかといって売りに来たものだ。ちょうど手持ちが  切れていたところだったし、値段も相場の半値以下だったので即金で  買った。手付けの百万だけでも差し引き七十万円の儲けだ。  「ご心配でしょう。早く持っていってお上げなさい。とりあえず手付  金だけ頂いて残りは明日で結構ですから」   老人は喜んで宝物三つを運転手に運ばせると急いで帰っていった。   翌日いつまで待っても老人は残りの金を払いに来なかった。   ――息子の病気が重くなったのだろうか?その時は多宝塔を置くの  が遅かったのだとか何とか言えばいい。もちろん手付は返さない。   ――それにしてもあの運転手、どこかで見覚えがある。あの髭と黒ぶ  ちのメガネを取ると・・・あ、そうだ、あいつだ。   狩田は慌てて金庫を開け、昨日老人が支払った帯封のある百万円の  札束を手に取って見た。上と下だけ本物で中はコピーだった。   運転手は世界美術宝飾のセールスと同一人物だ。ぐるだ。   三十万円払って戻ってきたのが二万円、差引き二十八万円の損害だ。