Hなたくらみ・哀愁のロンドン編

おバカ男のHなたくらみ
青春編・その3

・・・憧れのハワイ・哀愁のロンドン・・・

*** おバカの「セイ シュン」二人旅 ***


 

・フラストレーションの道ずれ・

  安室奈美恵さんの結婚発表記者会見では、ついでに妊娠も発表なさっておられました。これから結婚するという発表の場で、既に妊娠しているということは、たぶん、それなりの親密な関係があったのではないかと帰納的に推測されます。マリア様の処女懐胎という事もありますからゼッタイとは言えませんが、恐らくそれなりの行為(この行為を「いいこと」と言う人と「いけないこと」と言う人がいる。現在私は立場を保留している)をなさったのではないでしょうか。(或いは私の考え違いかもしれませんが)
  その少し前に西村知美さんがご結婚なさったとき、結婚式で誓いのくちづけをなさっておられました。それはそれは長ーいくちづけで、聞けばそれがファーストキスだったと言うことです。婚約期間がそれなりにあったでしょうに、彼らはいったいその間、何をしていたのでしょうか?夜はトランプでもしていたのでしょうか?(この行為を「純愛」と言う人と「不甲斐な愛」と言う人がいる。現在私は立場を保留している)

  それはさておき、私も学校卒業後は、人並みに会社勤めをしました。
その頃、同期入社のK君にかわいい恋人がいて、仕事にもなれてきた秋ぐちには「来春には結婚するから、君には式の司会をしてほしい」と頼まれていました。K君の恋人は西村知美さん似のチャーミングな人でしたが、男女交際に関する考え方も西村さんに似ているらしく、アレもコレもナニも、結婚するまでは決して許してくれないらしいのでした。K君は健康な若い男性ですから純粋な欲望を所持していました。純粋な欲望も刺激さえ与えなければ大きくうごめくこともありません。しかし、かわいいフィアンセが目の前にいて「アレもコレもナニもダメ」というのでは、目の前に人参をぶら下げられた雄馬です。「したい」でも無理強いして彼女に「嫌われたくない」という二律背反に悩んでいたのでした。

  その冬のボーナス支給日のことです。初めてのボーナス支給明細書を見ながらK君が訴えるような目をして私に言いました。
  「このボーナスでキャバレーに行きたい。是非行きたい。行ってアレもコレもしたい。君、願わくば同行してくれたまえ。中村たまえ」
  私は友達の切実な願いをむげに断るような薄情な男ではありません。まして彼の結婚式の司会も頼まれている立場として、どうしてこの窮状を見捨てることができましょう。
しかし、一言だけ「彼女に見つかったらどうするんだい」とアドバイスを投げかけました。
  「黙ってればわからん!
彼の、この男らしい言葉に感銘を受けた私は即座に同行に同意しました。結婚式の司会者を頼まれた者としての責任として、彼の動向を見届け導く責任も感じたからでもあります。
ただ問題はありました。「アレは可能だがコレは難しいかもしれない」などという細部の、しかし重要な問題ばかりではなく、まず第一に、我々二人はこれまでキャバレーなる場所に足を踏み入れたことがなかったのです。(当時のキャバレー業界は、ショーなどを楽しむ伝統的な大型キャバレーから、ミニサロンまたはピンサロと呼ばれるエゲツないサービス主体の小規模キャバレーに移行する過渡期にありました)
どれほどの予算で、どの店にどうやって行けばいいのか見当がつきません。「猿にもわかるキャバレー入門」などというマニュアル本が売られているわけでもなく、このような問題に真摯な態度で答えてくれそうな、口の堅い知り合いもいない現状で、すべては二人で考えるほかありません。
とりあえず予算は1万円でいいのではないかということで、昼休みには銀行からそれぞれ同額を引き出してきました。細部の計画については会社がおわってから考えようということになったのです。
かくして勤務終了後、会社を出て駅までの道をそぞろ歩きながら、今後の計画を練るのでした。
  「服装はこれでいいだろうか?」
  「なんでもいいんじゃないか」
  「場所はどこがいい?」
  「会社から遠く、彼女と会う可能性のない場所、家と会社の中間のS駅がいいだろう」
  「で、店はどこがいい?」
  「テレビで宣伝してる『ハワイ』はどうだろう。S駅前にもフラダンス姿のネオンサインがある」

  S駅に降り立つと駅前には燦然と輝くハワイのネオンが目に入り、胸の高鳴りを感じました。表にある看板によると「明瞭会計、時間別セット料金50分何千何百円」とのことで、予算の半分ほどで間に合うことは確認できます。しかし、二人ともこのような場所は未経験です、店の前に立っているブカブカの黒服をきた客引きもあやしげです。
しばしの躊躇のあと、どちらからともなく「まずはどっかで一杯飲んでから」ということになりました。ちょうどよくハワイの並びに小料理屋があります。入って黙々とビールを飲みました。

・憧れのハワイ航路・

  一杯やって度胸もすわってきた頃合いを見計らって、いざ出航ということになり、胸の中でドラが鳴り響きました。
  乗船は思いのほか簡単にいきました。「お二人さん御アンナーイ」てなもんで真っ暗な店内に入ります。ボーイに片隅のボックス席に案内されK君と私は向かい合ってすわります。セット料金ですので前払で支払いをします。
「ご指名は?」と聞かれたK君は
  「えぇ?自分の名前いうんですか?」と御氏名と御指名を混同しています。
  「いえ、なじみの子いましたら、お呼びますが・・」
ここで私がしゃしゃり出て(司会を頼まれた者の義務から)交渉交代。
  「イエイエ、ここ初めてだから。なるべく可愛い子を見つくろってお願いします」
  「ハイ、うちはみんなカワイコちゃんですから・・・」
交渉の終了から1分もたたないうちに、ワンピースのカワイコちゃんが2名登場しました。私の交渉が よかったのでしょう、両名ともに可愛い。モモエとアキナと名乗り名刺まで寄こします。同時に運ばれてきたビールをいそいそとグラスに注いでくれます。
この後はどうしたものかとかとビールを飲みながら、暗闇に慣れてきた目で回りを見ると、向こう側のオジサンはモモエちゃんと同じ服を来た女性の肩に片手を回し、もう一方の手を膝に、目は胸元を覗いています。やはり先人の知恵には学ばねばなりません。私も当たり障りのない会話をかわしながらモモエちゃんの膝に手を置きました。K君をみると同じことをアキナちゃんに行っています。
  しかし、セット料金のタイムリミットは確か50分、ボーっとしていては時代の変化に取り残されてしまいます。日本経済の進行速度は「早きことハワイの風の如し」なのです。
私は膝に置いた手に神経を集中させました。すると何か通常とは違う感覚を感じました。堅いのです。10センチほど上に、つまり太股のあたりまで片手を移動させたのですが、やっぱり堅いのです。素肌の温もりも感じられないのです。見た目には太股です。にも関わらずバリバリの感触。たまらず私はわき上がる疑問をモモエちゃんに投げかけました。
  「これパンスト?すごく厚い生地。タイツ?ズボンじゃないよね?」
  「まさかー。ズボンじゃないけど、パンストでもないのよね。私たちのヨロイかな?ほらこれ!」
と言うとスカートをサッとたくし上げました。
  「それだけじゃなく、ボディースーツ着てガードルも重ねてるから、トイレたーいへん」
ガードルというのは太股の半分を覆うほどのごついヤツで、私はあっけにとられて言葉もありません。
  「ほら胸もネ・・」と言って私の手を自分の胸に持っていってくれるのですが、そこも同様に堅い。お椀か何かを入れているのでしょうか。
さっきまで高鳴っていた胸の銅鑼の音も消え、のど自慢の残念賞の鐘が1つ「カーン」となりました。K君を見ると、彼についたアキナちゃんも同様であるらしく落胆の色は隠せません。
店内の喧噪のBGMの中、私は彼に目で合図を送りました。
  「明眸皓歯なれど防備固し、セット時間終了後、即退店。延長、是を厳禁す」
出ていたビールを飲み干し「延長してくれない?」の言葉にも「また今度ね」と軽く受け流し早々とハワイから帰還したのでした。

・哀愁のロンドン・

  外は星も見えないほどネオンがまぶしく瞬いています。ハワイ帰りといっても、これではタイムカードを押さないだけで会社帰りと変わりありません。かえってフラストレーションを増大させたK君とフラストレーションを自ら作った私が、このままで収まるはずはありません。
二人同時に数メートル先のロンドンのネオンサインを見上げました。
  「ハワイの仇をロンドンで、といくか」
  「ロンドン、ロンドン、ドンドンっていってるし」
  「そう、ドンドン触れるかもしれない」
即断即決日払いOK。アッと言う間に二人はロンドン前に到着しました。ここはいわばヒースロー空港内税関とも言うべきところです。1軒とはいえ場数を踏み、欲求不満のカタマリと化したK君は客引きの男に対し内容の確認と交渉に当たりました。客引きの男は「フーテンの寅さん」に出ていた寺男の蛾次郎さんに似た風貌の人で、K君の勢いにたじたじです。
  「今ハワイに行ったけどゼーンゼン触らしてくれない。ロンドンは触れる?」
  「はい、それはモー、大丈夫です」
  「ここも?ここも?」とK君は蛾次郎さんの胸と股間に手を伸ばしました。蛾次郎は後ずさりしながら
  「お客さん、ちょうど、いい子が二人いますから、待っててください。今あいてるかどうか見てきますから」
と店に入って行き、1分ほどで戻ってきました。
  「お客さん、チョード二人あいてます。指名料サービスしときますから」

  店内に入るとハワイ同様真っ暗です。霧のロンドンといったところですが目が慣れてきて周囲の状況を観察すると先程のハワイよりは女性と客の密着度が高いようです。「イイかもしれない」とK君が目で合図してきました。
  前払いの料金を徴収され、ボーイが釣銭とビールをもって来ると、それからが「待つことウレシ10分間」。向こうの従業員出入口の扉が開いて、バレリーナのような衣装をまとった女性が見えると、私達二人は、その女性を凝視しました。ダンダンと近づいてきて、顔が確認できる中間地点に至り、二人同時に「オー」とも「エー」とも、また「ギャー」ともつかない感嘆の声を、いや、悲鳴に似た声を上げました。彼女は若くないのです。
若くないといっても、小学生と較べてハタチは若くないし、ハタチから見れば30才も若くないでしょう。しかし、その女性は50才と較べても若くないのです。50才の後半と見ていいようです。
こっちを見て微笑みながら歩いてくる女性が、「私たちの席に来るべき人ではないように」という二人の祈りも空しく、彼女は私たちのテーブルの前に立ち「小百合です」と名乗ったのでした。
  この時、私は真の友情の為、今までの考えを一部変更しました。「K君の将来の結婚生活の安定と平安のため、こういう人生の機微を知っているであろう小百合さんにこそ接してもらうべきではないだろうか!」と。
K君と私は同時に立ち上がり「どうぞどうぞ」と相手の席の隣に座らせようと促します。私は友情の為に無理矢理に小百合さんのシミのあるむき出しの背中を押して、K君の隣にすわらせました。とうとう、私が「押しくらまんじゅう」に勝ったのです。
自分の席に戻って向かい側のK君と小百合さんのカップルを見ました。私はこの時ほど「人生の勝利」を感じたことがありません。「よかった、本当によかった。司会を頼まれた身としてK君を正しく導いた。それより何より小百合さんを・・・」見れば見るほど小百合さんは、シワのかたまりに厚化粧のブヨブヨのおばさんです。
  その時、また従業員出入口の扉が開いて、バレリーナのような衣装をまとった女性が見えました。遠目に少し小柄に見えました。まさかロンドンに化け物が2人いるわけはありません。多少の顔の悪さは我慢しよう、スタイルも我慢しよう、トシだって30、いや40だって我慢する、と強い意志で覚悟を決めました。
しかし、ダンダンと近づいてきて、顔が確認できる中間地点に至り、私は軽いめまいを覚えました。「来ないで!」というメンタルな叫びも空しく、その女性は私たちのテーブルの前に立ち「小巻です」と名乗りました。小巻さんは小百合さんよりさらに何歳かお年をめしていらっしゃるようでした。60才はカタイと思われました。

  ボー然と見上げる私を見て、小巻さんは「あーら、こちらお若いこと」とイイながら、こともあろうに私の膝にすわって来るのでした。小巻さんのやせぎすのお尻の骨が突き刺さり「あっ、あっ、やめて下さい。ビ、ビ、ビールついで下さい・・」と口走り、必死に逃れようとしました。
見れば、私をさげすむように見るK君の鋭い視線が、小巻さんの肩越しにありました。

ハワイもロンドンも哀愁に満ちているのでした。

●翌日の会社の昼休み: 定食屋での反省会

  「あんな婆さんが何でロンドンにいたのだろうか?」
  「きっと、いつもは皿洗いをしているおばさんじゃないか」
  「出てくるのに10分ほどかかったのは着替えと化粧の時間だろう」
  「でも何で?」
  「客引きに迫ったからだ。アレはやりすぎだった」
強く反省して、次の失敗までは決して失敗しないように誓いあう二人なのでした。
 


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