百舌花の暑い夏 春が来て、夏が過ぎ、百舌花は行く

百舌花の暑い夏

言うまいと思えど今日の暑さかな

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・・・残暑お見舞い申し上げます・・・

  夏は暑いと昔から決まってはいるのですが、今年の夏はまた、ことのほか暑いようです。
  今は西暦2000年の9月、もう暦の上では秋なのですが、残暑もまた、ことのほか厳しく、私のような虚弱軟弱な人間には辛い日々です・・・・・。

・・・私の前を行く人・・・

  なぜか私が道を歩く時、若い女性が前を歩いていることが多いようです。友人にこの事を言うと「君が意識的に後をつけているだけじゃないのか」というのですが、そんな事はありません。「おバカはすれども非道はせず」が私のモットーです。そんなストーカーのような事をするはずがありません。あくまでも偶然が何度も起こっているにすぎません。或いは神様がモテない私を憐れとおぼし召して、私が歩くたびに若い女性を前に配してくれているのかもしれません。

・・・美しい進化と経済性・・・

  8月末の暑い真昼の事です。暑さにボーッとしながら私が道を歩いて行くと、前の信号が砂漠の太陽のような赤に変わりました。信号の向こうには本物の太陽もあって、容赦なく私を照らしています。真夏の炎天下で立っているのは辛いことです。まぶしさのあまり、私は顔を90度左に背けました。
  すると側面の信号は青で、そちらの横断歩道から今しも美しい若い女性がこちらに向かって歩いてくるのでした。
  あぁ、つくづく日本は良い方向に向かっていると思わずにはいられません。その女性の衣服は進歩そのものなのです。去年はキャミソール風の衣服の流行りました。その時も私はすばらしいと思いました。透けるような素材が流行した事もあります。身体にピッタリしたボディコンという種類の衣類も好ましいものでした。短いスカートもすばらしく、タンクトップもこの上なくステキです。どうも女性の衣類における進化は生地を少なくする方向に向かっています。それは理にかなっています。使う生地が少ない方が経済的です。残った生地は発展途上国に送ることもできます。更に暑い夏には省エネ効果も期待できます。その上、脱ぎ着が簡単でもあるし、まぁ、ついでではありますが、私に生きる希望を与えてくれます。
  こちらに向かって歩いてくる若い女性は、ダーウィンの進化論の続編にサンプルとして掲載したいほどの進化を遂げていました。まず、スカートが極端に短く、これ以上短くするためには、もう力士のまわし以外にはありません。そこから形よく長いナマ足が伸び、厚底のサンダルを往時の吉原の花魁のように美しく引きずっています。更に髪の毛はマリリンモンローのような金髪ながら、生え際には日本女性の痕跡を残す黒髪が美しくのぞき、後ろでギュッ束ねてスズメの巣のようにして頭の上に配置しています。そしてまた上半身を覆う物は、肩紐のないタンクトップおじさんの腹巻を紫に染めたような物を胸元まで引っ張りあげただけのシロモノなのです。肩紐がないのですから、ニュートンの万有引力の法則を持ち出すまでもなく、歩けば振動でずり落ちるのではないかと心配する向きもありましょうが、残念な事に、今のところそういう事態に遭遇したことがありません。恐らく大きな胸の先に付いている2つの突起物に引っ掛っているのでしょう。
  暑さにボーッとしながらも、さりげなくその女性を観察し考察をめぐらしていると、その女性はすでに横断歩道を渡り終え、私の前に背中を向けて立ちました。私と同じ方向へ向かう為に正面の信号が青に変わるのを待っているのです。

・・・そして美しい背中・・・

  その女性は背の高い人でした。厚底サンダルのせいもあって、私の目の高さに女性の肩がありました。ほどなくして信号が青に変わると彼女は私の前をしなやかに歩き出しました。あくまでも偶然そういう状況になってしまったのですが、こうなると自然に私の視線は彼女の背後に注がれることになります。と、見るとうなじに汗がにじんでいました。美しい汗です。その汗の一粒がスーッと数センチ下に流れて肩の線で止まりました。
  よくよく見ると彼女の美しい背中には、背骨を中心にして左右対称にうなじから細かく美しい産毛が下に向かって生えています。そして首から数センチ下がったあたりで左右それぞれ外側にカーブしてクルリと渦を巻いています。その右側の産毛の道へ、先ほど生まれて成長した汗の一粒がススッ、ススッと落ちてきたのです。このまままっすぐ落ちて行けば汗粒は腹巻状のタンクトップの中へ入って行くでしょう。しかし、そこには産毛のターンする道ができていて、あるいは落下を阻止するかもしれません。私は暑さで頭がボーッとしながらも、その汗粒の動向から目が離せなくなりました。
  果して、汗粒は産毛に沿って右に曲がり止まりました。もっと粒が大きく勢いがついていればパチンコの玉のようにぐるっと回ったかもしれません。私は少しメマイを覚えました。そして、こんなにシゲシゲと観察してストーカーと間違われはしまいかという考えが頭を過りました。
  その時です、その女性が
 「何してんのよ、あんた」と大きな声で言いました。突然のことに私は少なからず狼狽して
 「す、す、すいません」とくちごもりながら言いました。

  私は正真正銘の小心者です。人に責められると、とりあえず謝ってしまうのです。混雑する地下鉄の中で足を踏まれた時も、つい「すいません」と言ってしまったことがあります。その時は私の足を踏んだおばさんのほうが「痛い!」と声を上げたので、その後は気まずい雰囲気がながれました。

  前を行く女性は私の声を聞いて振り返り、その美しい細眉を更に細くつりあげ、私を睨んで「え?」と言いました。私は一瞬たじろぎましたが、見れば彼女は携帯電話を耳に当てて話をしているではありませんか。
  「ううん、違うの、マサキの事じゃなくてぇ、こっちの事。変なのがさ・・・」と言ってまた私に一瞥をあたえました。
  「それよりマサキ、何よ、あんた。あたし30分も待ってたんだからね・・・」
  彼女は私に対して非難の声を上げたのではなかったのです。携帯電話で不実なマサキを責めていただけなのでした。あぁ、それなのに私はパブロフの犬のように条件反射的に謝ってしまい、とうとう「変なの」にされてしまったのでした。よよょ・・。

  かくして百舌花の20世紀最後の夏は過ぎて行くのでした・・・。

・・・ おバカにも明るい21世紀を ・・・

私はただ彼女の汗の行く末を見守っていたにすぎません。あの汗は今どうなったでしょうか?


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