話をキスに戻します。
魚の名前にキス「鱚」と言うのがありますが、実は日本人の名字にもキスがあるのです。英国人にはセックスさんという方がいるそうですから、日本人にキスさんいても少しも不思議ではありません。私の住んでいる小さな街の電話帳に載っているだけでも4人もいます。
「木須」さんと書きます。
そこで本論です。
***「接吻成就法」***
◎前準備
貴女がキスしたいと思っている憧れの人の周辺で、自分が作家、または女優になると宣言します。ついてはペンネーム、または芸名をつけたので今後はその名前で呼んで欲しいと頼みます。名前は「木須寂聴」とか「木須蘭々」にします。要するに姓が「木須」であれば、名は何でもかまいません。
◎第2段階
新しい名前が仲間内で違和感なく通用するようになったら、計画の第2段階にはいります。憧れの彼にさりげなく「○○君にさー、そのうち相談したいことあるんだー」と言います。「ちょっと聞いてもらいたいことあってー、まあ、そのうちね」などと言ったりもします。これははっきり拒絶されないために曖昧にいわねばなりません。ですから、はじめから「何月何日何時に」など具体的に言ってはいけません。あくまで何かの話のついでに「いつでもいいんでけどさー」という感じで、相手が聞き流せるように話します。しかし、繰り返し繰り返し話し、相手の意識のどこかにに植え付けるようにします。
ここまででまず1ヶ月程度かけます。
◎第3段階
さあ、胸躍る実行の日です。せいぜいおめかししましょう。
吉良邸討ち入りのように吉良上野之介が屋敷にいるかどうか、つまり、憧れの彼が在宅かどうかを確認しておきます。間違いなくいるという日が吉日、決行日です。なんなら会社の帰りとか、学校の帰りとか、あとをつけて行くと簡単です。あとで彼に出かける用事などがあるといけませんから、できれば午後9時過ぎの訪問がオススメです。かくして、彼の家の前に立ち、力強く呼び鈴のボタンを押します。ピンポーン!
◎最終段階
ピンポーン!と鳴って、彼が「どなたですか?」と言ったら「あのー」とだけいいます。
もう一度聞かれたら「あのー、ムニャムニャ」と曖昧に答えます。誰かな?と彼が確認のためにドアを薄く開けたら、この瞬間を逃さず、貴女の太い足をドアの隙間にサッと差し込みます。いえ、細い足でもかまいません。要は閉められなくしてしまえばいいのです。足を突っ込んだらあとは曖昧な態度は捨て、はっきりと聞こえる声で言います。
「あのー、木須ですけどいいですか?」
貴女が「木須」という名前にしたことは前々から言ってありますし、相談したいことがあるという伏線もはってありますから、たとえイヤイヤであるとしても、「どうぞ」とか「2、3分ならだったら」とか言うでしょう。仮に「今忙しいから」とか言っても、足を更に深く差し入れ「少しだけですから」と、キ然とした態度で言います。
このキ然としたこの押しの一手で、彼は必ずや「じゃあどうぞ」言うでしょう。この一言を得ることキーポイントです。たとえ口から出ただけのモノだとしても、これもりっぱな言質です。「キスですけど、いいですか?」つまり「キスしていいですか?」という依頼に対し、承諾したのです。法律的にも政治的にも何のやましいところもありません。間髪をおかず抱きつき、ブッチュブッチュとキスをしまくります。特に、訂正の言葉を発する間を与えない為にも、マウスツーマウスが最適です。
アー、何という至福の時。これであなたの長年の夢も叶いました。めでたしめでたし。