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おバカの昼下り
ケダルイ夏の昼下り、百舌花は今日も生きる!
幸運の「特S席」
こんな時、あなたならどこに座るでしょうか?ほとんどの人は行き当たりばったりに考えもせず適当な場所に座るのではないでしょうか。それでは折角のチャンスを失ってしまうことにもなりかねません。かけがえのない人生の中で、その日その時、不思議なエニシによって、たまたま地下鉄に乗るというこの偶然、このヒトトキを精一杯生きる!これが人間のあるべき姿ではないでしょうか。たとえ気だるい時であっても、先を見据えた確固たる信念を持って行動しなくてはなりません。
ではここで正しい座席の選び方について考察してみましょう。
たとえばコンサートや演劇などの場合、その予約する席の種類によって値段は大きく違っています。S席が一番高価でA席、B席、立ち見の順に安くなっているようです。この差はどこからくるのかといいますと、高価な席の高価なる所以は「よく見える」と「よく聞こえる」の2点に尽きると思います。
これを地下鉄の座席に当てはめて考えれば、どこに座るべきか、答えは自ずから出てきます。
「よく見える席」これはミニスカートをはいた女性が向かい側に座っている席ということになります。
「よく聞こえる席」これは横に座った女性が友人と男性問題のついて討論、あるいは彼と痴話喧嘩している席ということになります。
前者をA席、後者をB席、両者あわせ持つ席がS席ということになります。地下鉄の場合、全席自由という制度をとっていて、同じ距離なら同額の運賃を払うのですから成るべく良い席を求めるのは人情というものです。地下鉄車内において、求める席の対面、及び両側面を考慮することの正当性については万人のご理解いただけるものと思います。
ついでですので、この際、地下鉄の車内構内で見かける許しがたい事実に言及しておきましょう。
これらはすべてミニスカートを着用する人間として許しがたい背信行為で、できれば桃太郎侍にでも登場願い、退治てもらいたいという気分にさせます。
さて、話を地下鉄に乗り込んでよい座席を探そうとしている場面に戻しましょう。
その日はとてもついていました。まことに運のいい事に「特S席」ともいうべき席を見つける事ができたのです。
向かい側に座っているコギャルは、もちろんミニ、そのうえ生足、極端な厚底のサンダルを履いている為に、座ると膝の位置が腰より高くなるという点も評価できました。足の傾斜は重要なポイントです。さらに暑さと気だるさの為か、目も虚ろで見るからに眠そうにしているのです。この眠そうにしているという点はことのほか重要です。寝てもなお、地下鉄の車内で膝をきちんと整えて座り続ける為には、それなりの辛い鍛錬が必要です。このコギャルが修行不足の未熟者であることを私は既に看破していました。
そして私の左側には美しいOL風の女性が座っていました。25歳ほどでしょうか、長い髪にノースリーブ、丈の短いワンピースを着ています。この女性もまた眠そうにしていました。見れば車内のほとんどの人は眠そうで、ただ私だけが強い意思の力によって睡魔を払いのけているもののようです。
電車が動き始めるとホドナクしてコギャルもOL風も、予想にたがわず、ウトウトとし始めました。OL風はゆっくりと私の方へ倒れかかり、むき出しの腕や腿が私の側面を心地よく圧迫します。微かに寝息も聞こえてきます。そのうえ天井に設置されているクーラーの風が、手入れの行き届いた長い髪のシャンプーのいい匂いを私の鼻腔に運んできます。時々、ほつれ髪が風に乗って私のほほを撫で、そのくすぐったさに絶えるのもまた、地下鉄の醍醐味と言えましょう。
一方コギャルも、既に眠りに落ちているようで、足から徐々に力が抜けて、少しずつ左足が外側に傾いてきています。私の方からは右側という事になりますので、できれば私も右側に体を傾けたかったのですが、それでは左から私に寄りかかっているOL風を起こすことになってしまいます。あせるな!二兎を追う者一兎をも得ずというではないか、と心の中で叫びました。ここは慎重にゆっくりと事を進めねばなりません。またいつこのような幸運な席に巡り合えるかわからないのです。
わずか数ミリずつを電車の揺れなどを利用しながら、慎重に体を傾けていきました。あと少しで目的が達せられるというところまできました。あまり慎重にしすぎても、次の駅に到着し、ドアの開閉や乗客の乗降の喧騒で二人が目を覚ましては、もともこもありません。次の駅まで1、2分「それなりに急ぐ必要もあるな」と思い、落ち着く為に一時体を静止させて、鼻から深く息を吸いました。
と、その時です。OL風の長い髪の毛の1本がクーラーの風に乗って、こともあろうに私の鼻の穴に侵入し、思わず「ハクッション!」と大きくクシャミをしてしまったのです。
なんたる不覚でしょう。隣のOL風はもちろん驚いて目を覚まし、即座に体を私から離しました。しぶきは向かい側までとどいたらしく、コギャルは目を覚まして私をにらみました。もちろん足もすばやく閉じてしまったのです。
その時、電車は次の駅に到着し、私のクシャミを目覚し時計がわりにした二人はそそくさと降りて行ってしまいました。
百舌花の天敵「おばさん」やむを得ず目をつぶると、疲労と失望の為か、私も深い眠りに落ち、気がつくと駅を二つも乗り越してしまっているのでした。