STUDY OF GERO

GEROの研究

入口もそこから出れば出口かな

感動のマラソンゲロ。最後にゲロは勝つ!堂々の銅メダル


・・・序(まくら)・・・

  しかし、ホントーにモー感動しました。
テレビで世界陸上の女子マラソンを見まてましたら、凄いモンです。日本人の鈴木博美さんが優勝した件については、この際、横に置いといて、ルーマニアのシモンさんがすごい。先頭グループが5人ぐらいになった頃だったでしょうか、アナウンサーが「嘔吐しました!嘔吐しました!」と連呼してます。見ますとシモン選手が、何と走りながら少し横を向いて、ドバーっと黄色い液体を吐いているのです。1拍おいて、もう1度ドバーっと吐きました。その間、スピードは少しも変わりません。解説の増田明美さんは冷静に「あの色だと、きっとオレンジジュースですね」などと内容物の分析をしています。
たいしたモンです。普通、ゲロするときは、うつむいて腰を屈めてウーなんてうめきながら、誰かに背中をさすってもらいながらってパターンが多いなか、さすが世界のトップアスリート、シモン嬢は違います。走りながらゲロできてしまうんです。やっぱり練習なんかしてるんでしょうか。
さらに凄いことにはシモン嬢は、最後の方で飛瀬貴子選手を抜かして堂々の銅メダルをとってしまったのです。ゲロを克服してのメダル獲得!美談ではありませんか。死んでもラッパを離さなかったラッパ手の木口小平さんみたいな人ナノです。(知らないかな?木口さん。戦前の国定教科書にある逸話)きっとルーマニアでは国定教科書に載って永くその栄誉が讃えられるのではないかと思います。

・・・人体実験、噴水編・・・

  思えばゲロにまつわる思い出は少なくありません。古くは小学生時代にさかのぼります。
  ある日のこと、友達数人と「人間はどのくらい水が飲めるものだろうか」という話しになりました。なぜ、そういう話しになったのかは、サダカではありませんが、まあガキというのは突然変なことを考えるものです。
それじゃ、試してみようということのなりました。ただ試してもつまらないから競争しようじゃないか、とういことになり、ルールを決めました。
コップ1杯180ccを一息で飲む、つっかえたら失格、たくさん飲んだ者が勝ち、というものです。
  はじめに私が挑戦しました。1杯目2杯目は順調。しかし、3杯目では少し胸につかえて滞ってしまいました。それを目ざとく友達に見とがめられ「失格!」、私の抗議も多数決により却下され、次はA君です。A君は私より体も大きいためか5、6杯はアッという間。7、8杯になると、さすがにペースはおちますが、それでもつかえることもなく飲み干します。もともと色白のA君ですが、9杯目になると顔色がよけい白くなったように感じました。そして、大台の10杯目です。ググググッと押し込むように飲み込んで、コップをテーブルに置いたとたんです。顔がスーっと青ざめたかと思うと、顔を上に向けるとピューっと噴水のように水を吐き出しました。私を含めて取り巻いていた子供達はあっけにとられて眺めていましたが、水は長いこと噴き出し続けたように感じました。噴き出しを終わったA君は仰向けに床に寝転び、ゲホゲホと咳き込んでいます。
  私たちは唖然として、大量の水の上に横たわるA君を見つめるのでした。

・・・正月、美顔編・・・

  ある正月3日の朝。私が学生の時のことです。友人と連れだって初売りでにぎわう街に出かけました。
とあるデパートの前に来ますと、地元の造り酒屋10軒ほどが菰(こも)樽を並べて振る舞い酒をしておりました。絣の着物に赤い帯のきれいなお姉さんが呼び込みをしています。
  「いかがですかー、地元酒造組合による縁起恒例無料振舞酒。お試飲下さ〜い」
これを見て友人が言いました。
  「ちょっと飲んでみないか?」
  「えっ、おまえ飲めるの?」
  「何をおっしゃるウサギさん、飲めるにきまってるでしょう。何だったら競争するか?」
  「おー、じゃやってみるか。タダだし、正月だし」
と、話はすぐにまとまり二人で一番右端の樽の前に行きました。
寒さのために少し頬を赤く染めた、ぽっちゃり型のお姉さんが一合升を手渡し、竹のひしゃくで酒を注いでくれます。私は樽の横に盛ってある塩をひとつまみ升の角にのせると、グビグビと呑み干しました。その美味いこと美味いこと。升の匂いがほんのり薫るなか、塩味を唇に残し、喉の奥に酒造メーカー自慢の銘酒が流れ込んで行きます。酒が内臓の隅々に「あけましておめでとう、今年もよろしくね」と声をかけていくのがわかるようです。
呑み干して、唇に残る塩をなめながら「美味い美味い」を連発して、はや隣のコモダルへ移動しますと、こちらは細面長身の美人がお酌です。なみなみ注がれた美酒をまた、グビグビと呑みました。一杯目の酒がまだ年賀の挨拶も終わらぬうちに、もう次の客が挨拶にきたものですから胃や腸は大忙し。まさか、今来客中ですから暫時食道でお待ち下され、とも言えず、先客を五臓六腑から手足の先まで御案内しての大にぎわい。二杯目もさすが、美味い。
こうして三杯四杯と升酒を重ねて、五六杯目ぐらいだったでしょうか。ふと見ると競争相手の友人がいません。周りをぐるりと探してみたのですが、そろそろ景色が二重に見えはじめてきてよく見えません。
  「奴め、敵前逃亡をはかりやがったな。意気地のないやつだ。まあいいか。ここは孤軍奮闘せねば」と端っこの十個目の樽までたどりつきました。
十種類呑んで、どれが一番美味いかと言われれば「どれもそれぞれに美味しゅうございます」と言わねばならないのでしょうが、それでは、せっかくこうして寒いなか振舞酒を用意してくれた地元酒造組合の皆様に申し訳ないし、やはり正確な順位を付けなくてはと思い、はじめのぽっちゃり型のお姉さんのいる樽にふらふら引き返しました。
  「あら、こちらお強いのね」などと言われながら
  「やっぱり、この酒が一番美味いかなーと思って」などとろれつの回らなくなってきた舌でゴマをすりながらまたグビグビを始めます。さらに隣の細面のお姉さんには
  「大丈夫かしら・・・」と言われながらも
  「ダイジョブ、ダイジョブ」とふらつきながらも酒を注いでもらって・・・・・・。

このへんまでは、なんとか憶えているのですが、そこから記憶がとぎれます。

ふと気がつくと見覚えのある天井。紛れもなく自分の部屋。いったい、どこをどうして帰って来たのかさっぱりわかりませんが、とりあえず畳の上に大の字に寝ていました。
そこまで確認すると、とたんにひどい頭痛と胸のむかつき。時計を見ると午後9時。タダ酒を呑み始めた時から12時間ほどたっています。冬ですから手足は冷たくなっていましたが、力を入れると動きます。
生きていることを確認してそっと起きあがろうとすると、何か異常な緊迫感が顔面にはしります。手で触れると顔中が、魚の鱗と言うかワニの皮と言うか、ガサガサという感触。一瞬、カフカの「変身」を思いだし甲虫になってしまったかた思われましたが、しかし手足は人間のままです。落ち着いて顎のあたりから触ってみると、ガサガサに切れ目があるようです。思い切って引き剥がしてみると一気に顎から右頬のあたりにかけて一枚の皮膜がはがれてきました。それは酸っぱい匂いの茶色の膜で、何か食品の残骸のような物も確認出来ました。
驚いて鏡で確認すると、それは乾燥した嘔吐物に違いありません。即座にすべてを理解しました。
私は酔って家までたどり着き、仰向けに寝たまま嘔吐して、それが時間とともに乾燥してしまったのです。
その後、剥がせるだけのゲロの残骸を慎重に剥がし取り、残りは石鹸をたっぷりとつけて洗顔をしました。洗顔後の顔を手のひらでなでると、今度は今まで感じたことのないスベスベ感が手に伝わります。まるで赤ん坊の肌に戻ったようです。思うにこれは、程良く消化されたタンパク質に、適度に胃酸が混じり合い、角質化した肌の老廃物に作用しての効果に違いありません。これぞ「究極のパック」と言えはしないでしょうか。この日以来、私はこれを「ゲロパック」と称して人に勧めています。ただ「窒息死」にだけは十分注意するようにとの注意を添えて。

・・・地下鉄、おばさん編・・・

  これは私が東京に住んでいた頃の話です。
午後10時すぎ、地下鉄銀座線の渋谷行きに乗っておりますと、神田のあたりで学生風のやせて背の高い青年が乗り込んできました。その青年はだいぶお酒を飲んだらしくかなり酩酊していました。乗り込んで車内に空いている席がないのをうつろな目で確かめると、出入り口のドアの横、座席の脇のパイプの柱に木登りをするかのようにしがみつきました。
私はちょうど向かい側の座席に座って見ていたのですが、その青年の顔は電車が揺れるたびに青白くなるように見えました。駅に止まって電車が走り出すと「うぅっ!」とうめき声まで上げるものですから、柱の脇の座席に座っていたOL風の女性は、京橋のあたりでたまらず席を立っていってしまいました。席が空いたのですから、気分の悪いその青年が座ればいいようなものですが、青年はもう目前の状況もわからのほどの有様で、ただひたすら柱にしがみつくのがやっとという状態です。乗客は皆、3メートルほど離れて遠巻きにしています。
  そうして電車は銀座へと入って行きました。ドアーが開くと、1人のおばさんが両手に大量の荷物を下げて真っ先に進入してきました。入るなり、歳を感じさせない機敏さで空席状況を検分したかと思うと、さっきOL風の女性が避難して空いた席に恐ろしいほど素早く近寄り、荷物の半分を網棚に載せ、ドッカリと座りました。
  そんな大胆なコトをして大丈夫なのか!っと考えたのは私だけではありません。乗客のそれぞれが顔を見合わせたり、おばさんと青年を心配げに返す返すにながめたりしています。そんなこととはつゆ知らず、おばさんは座れた幸運に満足げな表情で、バックからガーゼハンカチを取り出すと首筋の汗を拭くのでした。

その時、ドアが閉まり電車がゴトンと一揺れして走り出しました。
ゴトンという一揺れに続いて、柱にしがみついていた青年がまた「うぅっ!」とうめき声あげました。おばさんはその時はじめてその存在に気がついたらしく、首筋においた手をそのままに、脇に立っている青年をうさんくさそうに見上げました。
その時です。
多くの乗客の予想にたがわず、青年はドバーっと嘔吐したのでした。
直撃といってもいいでしょう。見上げるおばさんの肩に、狙ったように降りかかるゲロ。見事というよりほかありません。
  「あああ、あんた、ななな、何すんのよ〜」というおばさんの絶叫が車内に鳴り響き、すえた臭いが漂います。「何するの」といわれても「ゲロしたんです」と返事もできない泥酔状態の青年です。おばさんはたえず「どうしてくれんのよぉ」「何すんのよぉ」「何だと思ってんのよぉ」とわめきながら、汗拭き使用中のガーゼタオルを、ゲロ拭きに転用しておりました。
その時また、青年が第2弾を吐き出し、今度はおばさんの足元を汚しました。もう、おばさんの顔は大魔人のようです。「早いこと避難すればいいのに」と私には思えましたが、人生経験の長いおばさん、度胸がすわっているのでしょうか、文句を言いながら、汚れた靴を脱いで足を拭いています。
さっき、その席から避難したOL風は、責任を感じたのでしょか、「これお使い下さい」とポケットティッシュをさし出し、おばさんはただ「どーしよう、どーしよう」と呪文のように唱えながら受け取ります。
乗客は観客と化して、かたずを呑んで第三弾を見守っていましたが、電車は汽笛一声、新橋へと入り、ドアに寄りかかるようにしていたゲロ青年はドア開放と同時にふらつきながらにホームに転がり出て行きました。
一拍おいて、出ていったことに気がついたおばさんは「あああ、あんたどこ行くのよ!」と叫んで靴を履き直し、網棚の荷物を取ろうともたついているうちに無情にもドアーは閉じ、現行犯を取り逃がしたおばさんを乗せ、電車はガタゴトと渋谷へ向けて走り出すのでした。

後にはただ、おばさんのブツブツいう声と、降りかかったゲロのすえた臭いだけが車内に漂っています。見かねて他の車両に移動した乗客もいました。

  人間、いつどんな災難が降りかかってくるかわかりません。席を見つけて幸運を感じたおばさんにとって、直後「ゲロ浴び」を予想するのは困難だったでしょう。「人間万事地下鉄がゲロ」ということなのでしょうか。おばさんの幸せを祈らずにはいられない私でした。

・・・結び・・・

  ゲロの歴史をひもとけば(そんなもんないかな?)遠くローマ帝国では、美味しいものをたくさん食べたいが為に、一度食べた物を吐き出し、また別の料理を味わったということです。
  先日の朝、我が街の繁華街を歩いていると、歩道の片隅にたくさんのハトが群れています。近づいて見ると何とゲロの乾いたのを囲んでのハトぽっぽの朝食会ではありませんか。ぽっぽぽっぽと仲むつまじくゲロをついばむハトさんの姿には微笑みを禁じ得ません。平和の象徴としてのハトの地位にも本心からうなずけます。
  それにしても、人間というものは2000年も前から変わることがなく、もっと食いたいから吐く、飲みたいから吐くという生活態度を首尾一貫つらぬいているもののようです。その結果、他の生物に幾ばくかの施しを与える。なんと徳のある行為というべきではないでしょうか。
  日本の、いやいや、世界の将来は誠に明るいのです。輝かしい21世紀はもうすぐです。
 


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