THE ADVENTURES OF OBAKA HOLMES

おバカホームズの冒険
月に群雲、花に風、今宵参上おバカ仮面

いざ おバカ 百舌花

神出鬼没の名探偵百舌花、怜悧な推理やいかに



 

*おバカの主張「有効な時間の過ごし方」

  親愛なる読者諸君突然ですが、皆さんは時間を無駄にしていないでしょうか。(この際だから「おバカの世界」訪問の時間は除く)「光陰矢の如し」と古人も言っています。(これは決して、銀行から金を借りると行員が矢のような催促をするという意味ではありません。)時間は矢の如く、かくも早く流れるのです。決して無駄にしてはいけないのです。

  例えば、皆さんは毎日、トイレにいる数分、何をしているでしょうか。もちろん大や小の用をたしているのでしょうが、よーく考えると、体の上半分は無為に過ごしているのです。これは大きな時間の無駄使いと言わねばなりません。
人間は普通、毎日最低一回、時間にして5、6分トイレにしゃがみます。この頃は生活の洋風化にともない5、6分すわることになっています。
たかが5、6分と侮ってはいけません。10日で1時間、1ヶ月では3時間、1年では36時間。人間1日6時間寝て、起きている時間が24時間中18時間とすると、なんと1年のうち2日間も、我々人間は、あの狭い密室で孤独にすわっていることになるのです。
実際は1日に2回以上トイレに行くこともありますし、腹の具合によっては1回に10分や20分も費やすこともあります。睡眠時間も8時間以上で1日の活動が16時間以下の人もいるでしょう。詳細に考察すれば1年に1週間近くもトイレに座る人もいるのです。
想像して見てください。自分が2日も3日も或いは1週間も、寂しく孤独に無為にトイレに座り続ける姿を!
私は数ヶ月前のある日、トイレという空間にいて、はたと、この事に気が付き愕然としました。

いけない!このままではいけない!人としてこの世に生を受け、この貴重な時間を、ただ排泄という非建設的な行為のみの終わらせてはいけないと強く感じたのでした。もっと有意義な人生を送るため、とかく無為に終わりがちなトイレタイムを、何とか有意義にするため、私はその日から研究を開始、苦節1日、次のような方法をあみ出したのです。

何かをするといっても、世間によくあるような「新聞を読む」というような紳士のたしなみに相反する行為は、私のよくするところではありません。不潔は行為はおバカにも許されないのです。
先ず、清潔を旨とするなら道具は使わないようにするのは一番。そこで考えた方法がこれです。

実は私はシャーロックホームズが好きで、その小説は新潮文庫の延原氏の翻訳により全作品を読んでいます。昔から好きだったため他の本はほとんど読んでいないにもかかわらず、ホームズだけは何回か繰り返して読んでいるのです。
この長年にわたって培った推理力をトイレという狭い空間で試す、これが最良の時間の有効利用と考えました。具体的に何をするかといいますと、次の私の歌を見てください。
  冬の日の便座に残るぬくもりに先に座りし人を忍びぬ
これです。トイレに入って座ったら、前に入っていた人が誰なのかを推理するのです。
これは簡単なようで、かなり複雑な知的ゲームといえます。とりあえず前のトイレ利用者を便宜的に「犯人」として、会社であれば容疑者を絞るために、休みの人、出張中の人などを除外します。つまりアリバイのある人を除外する訳です。その後、便座に残る温もり、トイレ内の残り香など調べます。これは犯人探しには忘れてならない重要なポイントです。排泄物の臭いでけでなく、整髪料の匂いなども警察犬のように細心の注意力をもって嗅ぎ取ります。それから、見落とされがちですが、トイレットペーパーのちぎり方も重要な決め手になります。性格の大胆な人ほど荒々しく引きちぎり、切れ端が斜めに長く垂れ下がっていますし、几帳面な人はミシン目にそってきれいに切ってあります。人によっては三角に折っていくマメな人もいます。もちろん便器、またはその周辺に残る遺留品も見逃してはなりません。ホームズのように床に這いつくばって虫眼鏡でもって観察する必要はありませんが、見落としがあってもいけません・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・そして話は本題に入る・・・・・・・・・・・・・・・・

  先日のことです、その日も「トイレに於ける有効な時間の過ごし方」を実践するため、一人で寡黙に、その個室に入りました。勿論ドアの前で、誰も後をつけて来ていないか左右の確認を怠りません。もうすでに、気分は名探偵なのです。
個室のドアを内側からロックすると、本来の用事をすますため素早く「考える人」のポーズをとりました。
さあ、ここからが推理ゲームの始まりです。先ずは臀部に感じる便座の温もりはっと。ほのかに残る、この人肌は、お酒で言えばぬるめの燗。現在のこの気温から察するに、ここを出たのは3分前から5分前の間。そうすると現在時間が11時50分だから、犯行推定時刻は11時45分から47分頃と言うことになり、かなり絞られてきました。このへんの推理、かなり科学的。
次ぎに匂い。まだ、事件が発生して数分と言うこともあって、これはかなり明確に確認できます。事件解決の為、鼻孔から大きく息を吸い込むと、フムフム、腹具合は悪くない人の模様です。そうなると、いつも下痢気味の二人は除外できるし、今日休みの二人、出張中の一人も除いてっと。かなり容疑者は絞られてきました。
更に鼻孔をかすかに刺激する整髪料の匂いは、若者向きの安物のそれ、そうなるとホシはまた限られてきます。
横を見ると、トイレットペーパーの端がギザギザに引きちぎられて右端は20センチほど細く垂れ下がっています。この使用状態は犯人が、短気な査証。となると・・・。
ここで事件の内容を一度、整理してみると「ホシは数分前まで会社に居て、腹の調子のいい若者、安物の整髪料を使っており、短気な性格」と言うことになります。こうなると消去法でいって、ホシはA君かB君しかいません。さて、どっちか?この結論に達するまでに1、2分ほど。我ながらなかなかのスピード。
ふと見ると、床に黒いボタンが一つ落ちています。ははー、これはホシの遺留品。重要な証拠物件となるものに違いありません。トイレの床に落ちているものです、ばっちいので軽々しくさわったりはしませんが、腰を大きくかがめて目を近づけてシゲシゲと見つめました。これはズボンのファスナーの上にあるボタンに違いありません。ホシはかなり間抜けな奴のようです。となると、犯人は、やはり、あいつか!

  と、その時、私は背中の下の部分、腰のあたりにゾクッとする悪寒を感じました。推理も佳境に入って本格的にアドベンチャーの世界にひたってきたのでしょうか。私は悪寒の正体を探ろうと腰のあたりに手をやりました。すると手にも何やら冷たい感触があります。更に首を回してその箇所を見ると、なんと私の純白のワイシャツの裾の部分が、薄水色に染まってきて居るではありませんか。
一瞬にして私は全てを理解しました。はじめに「考える人」のポーズをとるときに、確かにたくし上げたワイシャツの裾が、今しがたの、ホシの遺留品と思われる床のボタンを確認する為の、腰をかがめるという作業によって、便器の水に垂らしてしまい、毛細管現象によって便器にたっぷりと溜めてある「ブルーレット置くだけ」の水で、その部分を染めてしまっていたのです。
なんという事でしょうか。日頃から何のために置いているのか理解に苦しむ「ブルーレット置くだけ」に憎さがつのります。とっさに、さっきまで証拠物件として眺めていたトイレットペーパーを、慌てて2、3メーターもからげ取ると、水色に染まった裾を巻き寿司のように簀巻きにし、更にぐるぐると野球ボールほどの団子を作ると両の手のひらでぎゅーっとつぶしてドラ焼き状にしました。
もう推理ゲームどころではありません。とりあえず、この場所に来た当初の目的である排泄作業を取り急ぎ済ませ、勿論その後に控える終了処理もてきぱきと済ませて、この忌まわしい場所から少しでも早く離れようと、くだんのドラ焼き状の物体を腰のあたりに押しつけ、ズボンの中にしまい込みました。
ファスナーを上げて、ボタンをはめようとすると、慌てている為かボタンがかかりません。見ればボタンがありません。あららら、間抜けな犯人が落としたとばかり思った床のボタンは、私のズボンのボタンではないですか。
つまみ取ったボタンをしばし眺め、又トイレットペーパーを10センチほどちぎり取り、包んでポケットにしまい込むと、端のギザギザに垂れ下がったトイレットペーパーを見つめながら、腰のあたりのがさがさと着心地の悪さを感じながらベルトをきつく、きつく絞めるのでした。

冒険というものは、いつの世にも孤独に始まり孤独に終わるものです。この日のように、或いはむなしい結末をむかえる事もあります。敗北の冒険者はごしごしと手を洗い、ポンポンと腰の物体を落ち着かせ、ふらふらと仕事場へ戻るのでした。

・・・・・今日の冒険ひとまず  >完<  明日こそ真犯人を捕まえてみせよーぞ。

 

 


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