「バカ気の至り」シリーズ 10

めくるめく霧中の散歩

・・・おバカも辛い事はある!・・・

  辛いことがあると人はふらりと旅に出たくなります。
  私も昔、失恋の胸の痛みに耐えかねて信州をさまよったことがあります。なぜ信州なのかというと、ふらりと新宿駅に立ち、切符売り場で一番安い周遊券が信州周遊券だったんですね、当時は。それに何か信州は傷心旅行に向いているような気もしました。
  どこをどうさまよったか、昔のことでしかと覚えていませんが、バスで霧が峰という高原に降り立ちました。車掌に「霧が峰でおりますから」と言ってあったので、寝っていた私は「お客さん着きましたよ」と起こされました。寝ぼけながらバスを出ると、外はホントに霧が峰。一面の霧で数メートル先も見えません。いくら行方さだめぬ流浪の旅と言っても、まったく初めての場所で前も後ろも、道さえ定かでなく、人っこ1人いないところでどうすればいいのでしょう。名前のイメージだけでこんなところに来た私のまったくの不覚です。
  ア然として立ちつくす私を見てバスの車掌もおかしいと思ったらしく、私が振り返るとドアを開けて「もう一度乗るかい?」と言いました。
  季節は晩秋。聞けばその時期は霧が深く訪れる人も少ないそうで「自殺でもしに来たかと心配したよ」と笑うのでした。

  そんな昔の出来事を思い出しながら、今日私は近所の公園を散歩しました。この頃では辛いことがあってもフラリと旅に出るというわけにもいきませんが、今日は私の住む辺りは濃霧でなかなかロマンチックです。一人歩けば気分はディカプリオ。霧の冷たさが頬に気持ちいいのです。
  ふと見ると、向こうの方に犬をつれた少女がたたずんでいます。ゴールデンレトリバーという高価で優雅な犬をつれた見るからにお嬢様という雰囲気のスレンダーな少女。淡いピンクのカーデガンからブラウスのレースの襟がのぞき、ほのかに揺れる長い髪が霧に濡れてしっとりと美しいのです。急にしゃがみ込んだので、近づいてみると、スッと立ち上がり、私の方を見て恥ずかしそうに微笑みました。まさに美少女です。左手には水色のビニール袋、少しズッシリと何かが詰まっているようです。右手には小さなスコップ。
  その時、霧をすかしてある種の臭いが漂いました。
  そうです。美しいお嬢様の毛並みのいいお犬様もウンコをなさるものなのです。お嬢様は愛犬のウンコをシャレた水色のビニール袋に詰め、いそいそと霧の中に消えて行ったのでした・・・・。
  一幅の絵と言っていいでしょう。この光景にいたく感動した私は久しぶりに歌心を刺激され、一首詠みました。

  愛犬と散歩楽しやお嬢様 ウンコの袋下げて帰りぬ

  心やるせないとき、人は詩人になります。

  なお、この歌は出来がいいので歌集「おバカ記念日」に同時掲載させていただきました。  


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